『竹は不思議な植物である。根には根の、枝には枝の、幹には幹の別個の味があって、 肌の色もちがうし、硬さもちがう。皮にいたっては、まか不思議な模様がある。
これらの表情を人形の部分に生かすと、得もいえぬ表情が出る。
文楽人形や、あるいは、ぬいぐるみや、木目こみとちがった素朴さもふかく、 その人形がかもし出す芝居は、「越前竹人形」のような土着的作品ならなおさら向くように思えた。
きめのこまかい心配りももちろん遣い手によって工夫されてゆくものの、
竹自体が奏でる音のようなものが、その動きに参加する場合もあるし、
かえって無表情なところが、心理をふかめることもあって、いわくいいがたい人形芝居になり得ていた。』
新書より『竹紙を漉く』平成13年文春新書より