闇の奥に竹林が浮かび上がる。
私は、腕の中のおりんにそっと語りかける。
「じゃ、行くよ」と。
舞台に上がる。
そこまではただの人形なのに、人形遣いがあらわれ、
おりん人形が三味線をその手にしたとたん、
竹人形が、一個のおりんという人間になる。
その瞬間が、私は一番好きだ。
その瞬間に私にも命が吹き込まれ、
それから登場するすべての人物に、
そして、光に、音に、さらには観客に力を与えられ、
私は彼らとともに、たっぷり1時間の旅をする。
それは私にとって、とても充足した旅なのだ。
願わくば、観てくださる方も、共に充足した旅を
味わっていただければといつも思っている。

【飛鳥井かゞり】
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